2011/02/04

朝、台所にたっていたら、どこからか男のいがみあっている声が聞こえてきた。ひとりの声しか聞こえないので、たぶん電話でもめているのだろう。話の内容まではききとれない。わたしはチャーシューを作ろうと、肉の塊に焼き目をつけていたところで、煙にまかれていた。それはあまりに激しく、換気扇を「強」にしても追いつかないので、玄関のドアを何気に開けると、なんということでしょう、隣の部屋からゴロゴロっと女の子が転がり出てくるではありませんか。ゲッ、震源地は隣だったのかよ。ギョッとする間もなく、突き倒された彼女は、尻もちを付いたままこちらを見て、「すいません、たすけてください!!!」という。黒いナイロンパンツに黒のスウェット。無防備な部屋着がなまなましい。その瞬間、きのうまでラブラブだったカップルが、朝になってケンカになり、男は女を突き倒し、女はわたしに助けを求めている。というところまでは理解するが、わたしはドアノブに手をかけたまま動けない。反射的に動けない。その間何秒あったろうか。すぐにドアの奥から男の腕だけが伸びてきて、彼女を引き入れた。

やっかいなものを見てしまったという思いと、あの瞬間どういう対応をするべきだったのかという思いで葛藤しつつ、チャーシューのタレをつくり肉の塊を放りこみ煮詰めること20分。火を止めたころにドアフォンがなる。「あの、となりのものですけど、ちょっといいですか」。ドアを開けるとヘルメットを持った若い男がひとりで立っていて、「さっきはお騒がせしてすいませんでした」という。相槌以外の何かを返すべきなのだろうと思いながらも、当たり障りの無いことをいうにさえ情報が少なすぎる。かといって事情を聞くところでもないだろう。彼の表情はすでに落ち着いていて、少しの笑みさえ浮かべている。おそらく暴力に慣れているのではないか。一方的に話を聞いてやりすごすと、またドアフォンがなる。こんどは女。「さっきはお騒がせしてすいませんでした」と再び。さっきは取り乱していた彼女も落ち着きを取り戻していた。「大丈夫でしたか?」と、ここでようやく返事をする。

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